内田樹の研究室 - RSS Feed

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Latest articles

それでも五輪中止を求める

 また東京五輪のことを書く。その話はもういいという読者もいると思うが、しつこく書かせてもらう。  5月に弁護士の宇都宮健児氏の呼びかけでオンライン署名サイトで五輪中止を求める署名が始まった。35万筆を超える署名が集まった時点で、東京都知事に要望書が提出された(7月6日時点では44万5千筆)。  要望書は、小池東京都知事宛てに提出された。だが、都はこの要望書に対していかなる検討も加えずにそのまま放置してきたことがその後の開示請求で明らかになった。報道機関からの「要望書にどう対応したのか」という問いかけに対しては、都は例のごとく「現下のコロナ対策に全力を尽くすとともに、引き続き、安全・安心な大会の開催に向けて、国・組織委員会等、関係者と連携・協力し、着実に準備を進めていきます」という壊れたロボットのような定型句を繰り返しただけであった。...

紀伊田辺聖地巡礼の旅

 宗教学者で僧侶の釈徹宗先生と「聖地巡礼」の旅を続けている。  もう十年以上前に、神戸女学院大学で「現代霊性論」という授業をしたのがきっかけである。宗教についてのさまざまなトピックを二人で掛け合いで論じた。学期の終わりに、授業で言及された仏閣仏像の現物を学生に見せようということになって、釈先生の解説を伺いながら、東寺の立体曼荼羅や三十三間堂の千手観音などを拝観してから南禅寺前で湯豆腐を頂いた。先達に導かれて聖地を巡歴することの楽しさをこの時に知って、そこから「聖地巡礼」のシリーズ企画が始まった。  大阪上町大地、奈良の三輪、京都紫野、熊野古道、長崎隠れキリシタンの旅、対馬と続き、今回はご縁があって紀伊田辺を訪れた。  この地の真言宗高山寺は合気道開祖植芝盛平翁のお墓がある「合気道家の聖地」である。すぐ近くには南方熊楠のお墓がある。田辺の生んだ三大偉人(もう一人は弁慶)のうち二人が一つのお寺の中に並んでいるのである。よほど引きの強い聖地に違いない。...

肩書について

中日新聞に今月からコラムを連載することになった。これが第一回。   連載の第一回目なので、自己紹介から始めたい。  いろいろな媒体で「肩書はどうしましょう?」と訊かれる。正直言って、私に訊かれても困る。私の名刺には「凱風館館長」と印字してある。凱風館というのは私が神戸で開いている道場・学塾の名前である。そこで合気道を教え、併せて「寺子屋ゼミ」というものを開講して塾生と共同研究をしている。それが主務である。「神戸女学院大学名誉教授」というのもよく使われるが、別にそういう仕事があるわけではない。物書きで生計を立ててもいるから「著述業」とか「エッセイスト」としてもよいのだが、落ち着きが悪い。「思想家」という肩書をつけられることもあるが、思想で飯を食うという姿がどうしてもうまく想像できない。...

Mからの手紙

 旧友のフランス人M***から久しぶりのメールが届いた。不思議な内容の依頼だった。僕たちは昔ある大学でフランス語の教師として一緒に働いていた。うちの娘と同年のお嬢さんがいて、娘たち二人はすぐに仲良くなった。それもあってそれから家族ぐるみで付き合うようになった。僕が神戸に移った年に「フランスに遊びにおいで」と誘ってくれたので、一夏を彼の故郷に近い南仏の海岸で過ごした。  彼は日本を舞台にした「伊藤さん」という短編集を書き上げており、それを日本で出版したいというので、僕がそれを翻訳することになった。その夏は海岸で二人で草稿の上で「これはどういう日本語に訳したらいいんだろう」というようなことを話していた。 『伊藤さん』はウェルメイドな短編集だったけれど、無名のフランス人の小説を出版してくれるところは日本には見つからず、その本は結局フランスの出版社から出ることになった。残念ながら、それほど注目されず、作家になるというM***の夢はそれでついえてしまった。...

成長と統治コスト

『複雑化の教育論』の中で、高度成長期に最も統治コストが嵩んだことを論じた。統治しにくい状態になると、経済は成長し、文化的発信力も高まる。だから今の日本のように「統治しやすい状態」になると、経済は停滞し、文化も力を失う。その「さわり」のところを少しだけ抜き書きしておく。  この30年間は中産階級の没落と、労働者階級の貧困化として進行しました。それは当然なんです。統治コストの削減は必ず「中産階級の空洞化」をめざすからです。これは世界中あらゆる国の出来事に妥当します。  近代史をひもとけばわかりますけれど、中産階級が勃興すると、民主化闘争が起きます。市民たちがある程度経済的に豊かになると、権利意識が芽生えてくる。言論の自由、思想信教の自由、政治的自由を求めるようになる。やがて、市民革命が起きて、近代市民社会が成立する。これは決まったコースなわけです。王政や帝政に替わって民主制が登場してくる。...

『世界新秩序と日本の未来』(集英社新書)のためのあとがき

 姜尚中さんとの対談本シリーズの三作目がもうすぐ刊行される。「あとがき」をあげておく。    最後までお読みくださって、ありがとうございます。  姜尚中さんとの集英社新書での対談シリーズはこれで3冊目となります。姜さんとお話をするのは、僕にとってはとても楽しく、また学ぶことの多い貴重な経験です。  他の方との対談でもほぼすべてそうなんですけれど、僕の場合、対談のお相手になる方は、論じている事案についての専門家で、僕はその件については素人です。  そういう人がどれくらいいるのか知りませんけれど、僕は専門家の話を聞くのが大好きなんです。前に、結婚披露宴のテーブルでたまたま隣り合わせた方の業界の話を熱心に聴いていたら、先方がふと我に返って「こんな話、面白いですか?」と不審そうな顔をされたことがありました(その時僕が聞き入っていたのは貴金属業界の景況についての話でした)。いや、面白いんです。きちんとした専門的知識の裏づけのある専門的な話は、ほんとうに面白い。...

呉泰奎総領事のこと

 大韓民国の呉泰奎(オ・テギュ)在大阪総領事が任期を終えて離任されることになった。  呉総領事は型破りの外交官だった。リベラルなハンギョレ新聞の創設メンバーの新聞記者で、長く日本で特派員をつとめた経験を買われて、文在寅大統領に請われて外交官に転じた。「ジャーナリストは現場に足を運んで、本人の話を聴くのが基本です」というのが信条だった。だから、これまで職業的な外交官が足を向けなかった場所や集まりにも気楽に顔を出した。そして、儀礼的な扱いを求めず、まっすぐ人々の懐に飛び込んだ。   在日コリアンの世界は複雑である。南と北のどちらかだけに帰属感を持つ人がおり、どちらをも祖国だと思う人がおり、どちらにも帰属感を持たない人がいる。総領事はそのすべての在日コリアンの利害を代表して行動しようとしていたように私には見えた。それは韓国政府の役人としての服務規定の範囲を時には超えることだったかも知れない。...

半藤一利『語り継ぐこの国のかたち』文庫版解説

半藤一利さんの『語り継ぐこの国のかたち』(大和書房)が文庫化されることになって、解説を頼まれた。この本は単行本のときの担当編集者が『街場の親子論』の企画者だった楊木さんだったということで、ご縁があるのね、ということでお引き受けしたのである。  この本は半藤一利さんが最晩年に書かれたものを集成した論集である。  私自身は半藤さんにお会いしたことがない。書かれたものはずいぶん読んだけれど、ついに尊顔を拝する機会を得ないままに半藤さんは鬼籍に入られた。得難い方を失ったと思う。  半藤さんのように東京大空襲を経験し、玉音放送を聴き、編集者となってから旧軍の人たちのオーラルヒストリーを聴き集めたというような希有な体験を持つ方がひとりずついなくなってゆく。そして、戦争を直接経験として有している世代が一人消えるごとに、戦争についての記憶がかすみ、あるいは歪められ、改竄され、上書きされる。戦争について語る言葉は時間とともに不可逆的に観念的でかつ軽いものなってゆく。そのことを半藤さんは亡くなられる前に強く危惧しておられたと思う。その思いは本書の行間ににじんでいる。...

人間性を基礎づけるのは弱さである

 今から10年前にラジオ収録のために、イデオロギーと生活感覚の癒合と乖離について平川君と彼の久が原の家でおしゃべりをしたことがあった。その時に備忘のために記した文章が『武道論』に再録された。少し短くしたものを「予告編」としてここにあげておく。  空理空論のイデオロギーは危険なものである。だから、それを制御するものとして、身体があり、日常の生活がある。 「百日の説教、屁一つ」と言う。いくら大義名分を掲げて偉そうなことを言っても、それを語っている当の本人の身体が語っている言葉を裏打ちしていないと言葉は力を失う。どれほど立派な口説も「ここがロドスだ、ここで跳べ」という地場からの挑発には対抗できない。「それだけ言うなら、ここでやってみせて見せろ」という言葉が空理空論には一番強い。  身体実感のある言葉を語っているかどうか、それは久しく知的言説に対する日本の庶人の身にしみた批評的規矩であった。平川くんも、高橋源一郎さんも、橋本治さんも、小田嶋隆さんも、町山智浩さんも、それを批評性の根拠としてきたのだろうと私は思っている。...

台湾海峡の危機

山形新聞に毎月連載しているコラムの4月寄稿分(2021年4月13日)  台湾海峡の緊張が高まっている。4月7日に12機の戦闘機を含む15機の中国機が台湾の防空識別圏に侵入した。米海軍の駆逐艦が台湾海峡を通過したことへの反応と見られる。中国政府は「米国が台湾海峡の平和と安定を危険にさらしている」とコメントし、これを承けて台湾の外交部長(外相)は中国による台湾侵攻の危機が高まっているという米軍の見解を紹介した上で「そうした事態になれば台湾は最後まで戦う」と述べた。台湾海峡の緊張はかなりシリアスなレベルに達してきた。   中国の台湾への軍事侵攻はあり得るのか? 米国の外交・軍事専門家の間ではしだいに「あり得る」という意見が増えている。  先月号の『フォーリン・アフェアーズ・レポート』の巻頭論文は中国は2027年までに軍の近代化を終え、台湾をめぐるアメリカとの紛争で「想定できるあらゆるシナリオで中国が支配的優位を確立することを目的にしている」と書いている。...

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