内田樹の研究室

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2020年の10大ニュース

大晦日なので、今年の10大ニュースを考えてみる。 (1)アウトブレイクで凱風館が休館 3月に県内最初の感染者が出た時点でまず3日から23日まで3週間休館。再開後、4月7日~5月18日まで5週間休館、7月18日~8月24日まで5週間休館、11月18日から今日まで6週間休館。ざっと29週間。一年の半分以上をお休みしていたことになる。杖道稽古と居合研究会はその間も継続していたし、その他の講習会は予定通り開催したが、やはり合気道の稽古ができないのはつらかった。21年はできるだけ早く稽古が再開できることをただ祈る。 (2)体調がすごく悪かった 19年の秋に風邪をひいて、咳と鼻水がなかなか治らず、数日して病院に行ったら「気管支炎」との診断。「肺炎一歩手前。年なんだから三日続いて具合が悪かったらすぐに病院に来なさい」とお医者さんに叱られた。結局風邪はそのあとも一月続き、風邪が治まったあとは膝の痛みが激しくなり、恒例のスパルタンスキーは涙の欠席。極楽スキーには湿布を貼ってなんとか這うようにして参加したけれど、二日目から体調が悪くなって三日目の夜には救急搬送。急性前立腺炎。体調が落ちると、基礎疾患の「弱い環」から切れて来るわけである。神戸に戻っ...

アメリカ大統領選を総括する

ある媒体にインタビューを受けて、アメリカ大統領選について総括的なコメントをした。少し言い足りないところがあったので、それを追加して、前半だけ採録しておく。  当選確定後、バイデンは自分に投票しなかったトランプ支持者にもひとしく配慮すると約束しました。トランプに投票した人は7380万人。浮動票を除いてもトランプのコアな支持者が今もアメリカ国内には数千万人いるということです。バイデンは彼らの立場や要求にも配慮しながら統治を進めなければいけない。困難な仕事になると思います。  それはアメリカ社会はどのようなものであるべきかについて、その「アイディア」によって現在の国民的分断がもたらされているからです。僕はそれを「自由」と「平等」のどちらをアメリカの本質的な理念に掲げるか、その選択の違いによるものではないかと考えています。それについて少し説明します。...

『日本戦後史論』文庫版あとがき

白井聡さんとの対談本、『日本戦後史論』が朝日文庫から文庫化された。その「あとがき」を採録。https://www.amazon.co.jp/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E6%88%A6%E5%BE%8C%E5%8F%B2%E8%AB%96-%E6%9C%9D%E6%97%A5%E6%96%87%E5%BA%AB-%E5%86%85%E7%94%B0-%E6%A8%B9/dp/4022620439/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&dchild=1&keywords=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E6%88%A6%E5%BE%8C%E5%8F%B2%E8%AB%96+%E6%9C%9D%E6%97%A5%E6%96%87%E5%BA%AB&qid=1609215304&sr=8-1...

自由学園創立100周年に寄せて

 自由学園創立100周年おめでとうございます。  自由学園の教育活動の魅力について何かコメントをというご依頼を受けたので、思いつくことを書くことにします。  僕が自由学園を訪れたのは一度だけです。そのときに園長先生から自由学園の沿革や教育理念についてうかがい、構内をご案内頂いて、建物を一つ一つ見て歩き、生徒さんたちとお昼ご飯をご一緒して、高校生たちを前に短い講演をしました。  そのときには自由学園の「魅力」について話したわけではありません(見たばかりで、よく知らないし)。それよりは、このような伝統ある教育機関で学ぶことの例外的な利点についてお話しました。そのときに話したことを思い出して再録して、それを以てお祝いの言葉に代えたいと思います。  今日うかがってみてわかりましたけれど、自由学園にはたくさんの伝統や決まりごとがあります。その中には大人には意味がわかっても、生徒さんたちには意味がわからないものがあります。僕はそれがこの学園の一番の教育的な「資産」だと思いました。...

平川克美『株式会社の世界史』書評

平川君から教えてもらったこと  僕は平川克美君が社長をしていた会社で働いていたことがある。四人のメンバーで翻訳会社を起業したのである。僕たちが26歳のときだった。  道玄坂上の日の当たらない貸しビルの狭い一室にゴミ捨て場から拾ってきたデスクやロッカーを置いてスタートした。それが高度成長の波に乗って、順調に売り上げを伸ばし、数年後には渋谷のビルのワンフロアを借り切って、二十人ほどの社員を擁するまでになった。  僕自身は大学院博士課程に進学したことを契機にフルタイムでの会社経営からは手を引いたのだが、スタートアップからの三年間は今思い出してもほんとうに愉快だった。ビジネスが「愉快」だったのは、ただ金が儲かったからだけではない。それ以上の、それ以外の何かがあったからである。平川君はこの本の中でこう書いている。...

アメリカの新しい論調から「ベーシックインカムについて」

Foreign Affairs Report を定期購読している。アメリカの本家のForeign Affairs の主要記事を和訳してくれたもので、雑誌の性格上、ホワイトハウスの政策決定過程に関与している、あるいはしたことのある人の寄稿が多いので、アメリカが今何を問題にしているのかを知る上ではたいへん貴重な情報源である。でも、「おう、俺も読んでるぜ」という人に会ったことがない。どうしてなんだろう。ほんとに貴重な情報源なんだけど。 ともかく、その2020年11月号に、日本人もよく読んでおいた方がいいと思われる記事があった。情報を共有しておきたいと思う。 それはカナダの学者のベーシックインカム(BI)論である。 2020年の大統領選の民主党候補に立候補したアンドリュー・ヤンはすべてのアメリカの成人に月額1000ドルを給付するというBIのアイディアを提示した。残念ながら、まったく支持が広がらず、2月のニューハンプシャーの予備選で撤退した。しかし、3月にアメリカでパンデミックが広がると事態が一変した。共和党のロムニー上院議員は一回限りの支給だが、全員に1000ドル給付を提案した。実際にアメリカ政府は所得条件をつけて、最大1200ドルの一...

平時と非常時

 毎年11月は韓国講演旅行に行っているけれど、今年はコロナで中止になった。その代わりにZOOMで日韓を繋いで、いつも通訳をしてくれる朴東燮先生にMCと通訳をお願いして、日韓のオーディエンスに向けて、11月2日と3日に「ポストコロナの社会」について90分の講演をした。  3日の講演では「平時と非常時」について話した。忘れないうちにどんなことを話したか記録しておく。  オーディエンスから事前にもらった質問票には次のような質問が含まれていた。 「市民が享受している自由と感染症対策としての自由の制限の矛盾をどう考えるべきですか?」 「ふだんはリベラルな人が政府や知事の要請する行動制限に従うのはおかしいという人がいますが、どう考えるべきでしょうか?」 「未知のウイルスに対する恐怖を利用して強権的な政治が行われるリスクはあるでしょうか?」...

独裁者とイエスマン

 日本学術会議の新会員任命拒否に私はつよく反対する立場にある。それは私がこの問題で政府への抗議の先頭に立っている「安全保障関連法に反対する学者の会」の一員であるということからもご存じだと思うけれど、私は一人の学者としてと同時に、一人の国民として、それも愛国者としてこのような政府の動きに懸念と怒りを禁じ得ないでいる。その理路について述べる。  任命拒否はどう考えても「政府に反対する学者は公的な承認や支援を期待できないことを覚悟しろ」という官邸からの恫喝である。政権に反対するものは統治の邪魔だからである。 「統治コストを最少化したい」というのは統治者からすれば当然のことである。だからその動機を私は(まったく賛成しないが)理解はできる。  けれども、統治コストの最少化を優先すると長期的には国力は深く損なわれる。そのことは強く訴えなければならない。...

公共と時間について

大阪市を廃止することの可否を問う住民投票が近づいてきた。議論のほとんどが「コスト」をめぐっている。しかし、行政システムの改変に際して経済合理性だけを基準にしてものを決めるのはとても危険なことである。それについて考察した部分を『日本習合論』から引用する。  今の日本と、僕が育った頃の日本を比較して、最も違ったのは、ものごとの価値や、あるいは言動の適否を考量するときの時間の長さだと思います。ある行き方を選択をした場合、それが適切だったかどうかを「いつ」の時点で判断できるか。その適否判断までのタイムラグは歴史的環境によってずいぶん変化します。でも、これほど時間意識が伸縮するものだと知りませんでした。  今はものごとの理非や適否を判定するまでのタイムラグが非常に短くなっています。せいぜい一年あるいは四半期、場合によってはもっと短い。そこで決着がついてしまう。ある政策決定を下した場合に、それが適切だったか否かが、数週間くらいでわかるはずがありません。結果が出るまでに数か月、数年、場合によっては数十年かかることだってある。でも、みんなそんな先のことについてはもう考えるのを止めてしまった。五年先というような未来において、どう評価されるかなん...

モーリス・ベジャール『M』解説:三島由紀夫という「起源」

東京バレエ団が三島由紀夫没後50年を記念して、モーリス・ベジャール振付、黛敏郎作曲の『M』を上演した。公式パンフレットに寄稿を依頼されたのでDVDで最初の公演の映像を見て、次のような文章を寄せた。  三島由紀夫は「三島由紀夫」というヴァーチャル・キャラクターをきわめて精密に彫琢したことで作家として奇跡的な成功を収めた。  もちろん、どんな作家も、程度の差はあれ、謎めいた「虚像」を読者の前に掲げることでその作品の魅力を上積みしている。別に作家自身が仕掛けなくても、読者や批評家たちが進んで「虚像」を作り込んでくれる。それは作家が凡庸で世俗的な人物であるよりミステリアスな存在である方が読者の快楽が強化されるからである。作家にいくつもの相貌があり、いくつもの地層があることを私たちは読者として素朴に願う。だから批評家たちの主務は「この作家は諸君の知らない一面を隠し持ち、諸君が気づかぬ屈託や欲望を抱え込み、諸君が見落としているメッセージをひそかに発信している」という仮説を提示することになるのである。それは「謎解き」というよりはむしろ「謎をふやす」ことに等しい。批評家の仕事は実はそれなのである。それが作品の魅力を増し、読者を引き寄せ、出版社...

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