わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

(スゴ本 = すごい本)

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英文読解の思考プロセスに特化した『英文解体新書』

英語を読むのが苦手だ。たとえばこれ。That the guy survived the accident surprised everyone.意味は分かる。難しい単語は無いから、単語だけをつなげばなんとなく分かる。でも、それじゃダメなんだ。問題なのは、最初の That が何なのかを知るために、最後まで読む必要があるところ。この That は、「あの」を意味するザットじゃなくって、「奴が事故を生き延びたこと」を指していて、なおかつ、この文全体の主語になっている。それに気づくために、全部読む必要がある(←ここがダメ)。これ、短い文だからなんとかなってしまうけれど、ちょっと長くなると、たちまち問題が顕在化する。Although almost everyone admits that social...

人生を変えることもできるのは音楽かもしれない『楽園ノイズ』

激しいリズムにひるむ。叩きつける音圧に押される。急上昇するオクターブに持っていかれる。部屋は静かなのに、小説を読んでいるだけなのに、そこに描かれるセッションを、夢中になって聴いている。彼女の想いは衝突を繰り返すサウンドの手応えではっきりと伝わってくる。そう、衝突だ。合わせるなんて馬鹿馬鹿しい。他のパートに合わせて叩くなんてドラムスじゃない。お互いに叩きつけ、傷つけ、貪り、奪い合いながらひとつになっていくのが音楽のほんとうの姿だ。高校生の「僕」が弾いてるのはベース、荒々しいドラムスが後輩の女子、隣の部屋からは、同級生の子がピアノで圧倒する。3人が演(や)っているのは、レディオヘッドの『クリープ』だ。無防備な状態で歌の中にぶっ込まれ、沸き上がってくる激情のままに声を絞る。そんな昔の知らないよ、というツッコミ上等。大丈夫、これ読んでると、かつて自分が聴いた曲を思い出すから。音楽に撃たれた経験があるなら、必ず思い出すから(わたしの場合、これ読んでるとき、ブルーハーツがずっと流れていた)。恋と音楽と青春を一冊に圧縮した『楽園ノイズ』は、読むセッションだ。それも、肌が泡立つやつ。ヒリヒリする緊張感と、想いをぶちまける解放感が混ぜこぜになって、確か...

辞書を丸ごと読んだら楽しかった『MD現代文・小論文』

きっかけは『独学大全』だ。語彙力を底上げするならこれだぞーとお薦めされたのと、どうせなら丸ごと読んでやれと思い、93日かけて踏破した。継続は力というのは本当で、読むことそのものより、続けることに注力した。この記事の前半は、その続け方のコツを紹介し、後半では、『MD現代文・小論文』の魅力と問題点について語ろう。まず、700ページを超える辞書をどうやって読んだか?もちろん、一日に数ページずつ読んでいくことを積み重ねていけばできる。700ページをノルマで割れば、何日かかるか、計算上は予測できる。だが、それってかなり大変だ。単調だし、飽きるかも。「ノルマ」なんて決めて、それを守れるのか? 三日坊主にならないか? 「そもそも何でやってるんだろう?」 と我に返る可能性だってある。習慣を作るだから、毎日読む習慣を作った。具体的には、読むタイミングを決めた。PCを立ち上げる前、昼食後、寝る前と決めて、その時に手に取るようにした。大事なのは、手に取ったとしても読まなくてもいい、というルールにしたこと。面倒ならページを開くだけで、読まなくてもいい……とハードルを極限まで下げたこと。三日坊主なら四日目に再スタートを切ればいいのだ。そして、読んだページを記録...

「普通のBL」とは何か?

アニメ映画の『同級生』を薦められたとき、身構えた。男子校が舞台で、2人の男の子が恋に落ちるお話だ。ひとりは学校一の秀才。入試で全科目満点を叩き出すぐらい優秀で、真面目がメガネをかけた理知的な印象がある。すぐ赤面する。もうひとりはバンドマン。ライブでギター弾いてて、女の子にも人気者。くしゃっとした明るい髪と人好きのする顔立ちだ。すぐ赤面する。そんな、普通なら決して交わることのない2人が、あることをきっかけに互いを意識し、距離を近づけてゆき、思いを伝え合う。ゲイの幸せな日常初々しく、可愛らしく、読んでるこっちが甘酸っぱい気持ちで一杯になる。あふれ出すリビドーを持て余していた自分と比べると、なんとも純粋な恋で、痛苦しくなる。そこに欲望があるのだが、互いに相手のことを慮るのが素晴らしい。そして、身構えていたのが、彼らの日常が幸せすぎること。幸せな結末にするにせよ、しないにせよ、そこへ至るまでの紆余曲折こそが、物語になる。簡単に2人を幸せにすると、ストーリーが転がらない。だから作者は障壁を設ける。すれ違ったり、モチを焼かせたり、ライバルを登場させたり、あの手この手で人の恋路の邪魔をする。ラブストーリーの定番だ。だから、男同士の恋愛というハードル...

人工衛星から遺跡を探す『宇宙考古学の冒険』

イタリアやフランスで、畑に模様を見かけたら、そこに遺跡がある可能性が高い。Wikipedia ”Cropmark” よりかつて、そこには石壁や住居の基礎があった。そうした構造物は、長い時間をかけてゆっくり土に埋もれてゆく。地表に牧草などが根付いた場合、その根は深く伸びることができない。そのため、牧草の生育が悪くなり、上空から見ると、奇妙な模様が浮かび上がる(考古学で、クロップマークと呼ぶ)。Wikipedia ”Cropmark” よりクロップマークは、航空写真で確認できる。だが、もっと微妙な、植生の健康状態の違いは、近赤外線データから読み取ることになる。人の目には同じに見えるが、近赤外線画像だと、クロロフィル(葉緑素)の違いは、赤色の違いによって判別できるからだ。宇宙から遺跡を探すこの発想を広げて、人工衛星から撮影した画像データを元に、地下に眠る遺跡を探すのが、宇宙考古学になる。単なる解像度の高い写真ではない。地上...

文明と穀物の深い関係『反穀物の人類史』

人類は、狩猟採集から農耕牧畜へと進歩した。穀物による安定した食糧生産が人々の健康を増進し、余暇を生み、文字や文明を育んでいった。文明を狙う野蛮人は、狩猟採集のままの生活で、文字を持たぬ遅れた未開の人々だった。……と思っている? だったら『反穀物の人類史』をお薦めする。著者はジェームズ・C・スコット、イェール大学の人類学部教授だ。メソポタミア、秦・漢、エジプト、ギリシア、ローマなど、文明の初期状態を検証することで、わたしが刷り込まれてきた「常識」に疑義を投げかける。狩猟採集の方が豊かだったまず、農耕社会が豊かだったというのは誤りだということが分かる。少なくとも、初期の農業は酷いもので、反対に豊かで多様性に富んでいたのは狩猟採集の人々になる。その証拠として、残されている農民の骨格を、同時期に近隣で暮らしていた狩猟採集民と比較する。すると、狩猟採集民の身長が、平均で5センチ以上も高いことから、栄養状態が良かったことが伺える。海洋、湿地、森林、草原、乾燥地など、複数の食物網にまたがっていたうえ、それぞれの季節に応じて移動していたため、食べものは多様で豊かだったと考えられる。一方、農民の大半は栄養不足による骨の変形が見られ、歯のエナメル質の形成...

スピルバーグ『レディ・プレイヤー1』を通じて、物語を面白くする映像技術、共感手法、映像の力を語り合う(追記あり)

物語に夢中になったことはないだろうか?小説やマンガ、ゲーム、映画や舞台など、素晴らしい作品に出会ったとき、あまりの面白さに、あっという間に時が過ぎる。お話が終わり、我に返った後、あらためて、なぜそれを面白いと思ったのかは、気にならないだろうか。その物語の「面白さ」はどこから来たのかなぜ、自分が、そこを「面白い」と感じたのかその「面白さ」は一般化/再現できるのかこうしたテーマを視野に入れ、古今東西の「面白い」作品について語り合う。これはという作品を取り上げ、物語を作る人、楽しむ人、広める人など、様々な視点から「面白い」について語り合うオンライン会が、「物語の探求」読書会だ(ネオ高等遊民サークルの分室)。今回は、映画に詳しいどぶ川さんをゲストにお招きして、スティーブン・スピルバーグの『レディ・プレイヤー1』をテーマに語り合った。面白い物語をどうやって映像にするか?...

「科学」と「正義」を混同すると、たいてい地獄ができあがる『禍いの科学』

アヘン、マーガリン、優生学、ロボトミーなど、科学的に正しかった禍(わざわ)いが、7章にわたって紹介されている。あたりまえだった「常識」を揺るがせにくる。ヒトラーの優生学たとえば、アドルフ・ヒトラーの優生学。劣悪な人種を排除すれば、ドイツを「純化」できると信じ、ユダヤ人を虐殺したことはあまりにも有名だ。だが、ガス室へ送り込まれたのは、ユダヤ人だけではない。うつ病、知的障害、てんかん、同性愛者など、医者が「生きるに値しない」と選別した人々が、収容所に送り込まれ、積極的に安楽死させられていった(『ナチスドイツと障害者「安楽死」計画』が詳しい)。『禍いの科学』によると、ナチスの優生学は、ヒトラー自身が編み出したものではないという。出所は、『偉大な人種の消滅』という一冊の本で、ヒトラーが読みふけり、「この本は、私にとっての聖書だ」とまで述べたという。『偉大な人種の消滅』はマディソン・グラントが書いたものだ。ニューヨーク生まれ、イェール大学を卒業し、弁護士として成功した後、自然保護運動で活躍する。バイソンやレッドウッドといった絶滅危惧種を救うことに尽力したとある。グラントはそこで、「北方人種」の純血性を守れと主張する。茶髪か金髪の碧眼の白人こそが...

諸星大二郎『美少女を食べる』を読むと、自分が食べているものが信じられなくなる

法外な会費をとり、秘密裏に開かれる「悪趣味クラブ」。不定期に開催される秘密の会合なのだが、そこで「美少女を食べる」という特別ディナーの席がもうけられる。もちろん、リブロース(肩)やランプ(お尻)の肉を提供するのだから、少女の命はない。当然、料理人も、そのレストランも、罪に問われるだろう。そして、それを承知で食べるほうも犯罪に加担しているも同然だ。しかし、そんなことがありうるのだろうか? いくら悪趣味だとしても、人を殺して食べるような外道が許されるのだろうか?少女の写真やドレスが展示され、彼女が行方不明になったことを報じる新聞記事が回覧されるが、招待客は半信半疑だ。これは、そういう雰囲気をつくり、思い込ませることで、「少女の人肉料理を食べる」という背徳感やスリルを楽しむ、一種の演出、悪趣味なショーなのではないか?...

『君の名は。』の初期プロットと、グレッグ・イーガン『貸金庫』の関係

きっかけは、グレッグ・イーガンのこのツイート。Just watched the anime “Your Name” (which was apparently inspired to some degree by my short story “The Safe-Deposit Box” (!) though the plot is entirely different [https://t.co/8jSpxyfnGp]). It was a bit saccharine in parts, but overall pretty good, and visually ravishing.— Greg Egan (@gregeganSF) November 28, 2020“『君の名は。』を観ました(私の短編『貸金庫』にインスパイアされたらしいけど、プロットは全く違う)。ちょっと甘ったるい所もあるけれど、全体的に素晴らしく、美しいビジュアルでした。”おお!...

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