わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

(スゴ本 = すごい本)

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意味が分かると『しびれる短歌』

この短歌、あなたは、どう感じるだろうか?ほんとうはあなたは無呼吸症候群おしえないまま隣でねむる鈴木美紀子同室で枕を並べる夫婦なのに、少なくとも妻は冷めきっているのが分かる。「ほんとうはあなたは」で、夫の寝息がおかしいことに気づいてから、結構な日数が経っている。おそらく、就寝中の夫の寝息がおかしいことに気づいて、ネットか何かで調べ、「無呼吸症候群」に辿り着いたのだろう。放っておいたら、そのまま息をしなくなるかもしれない。それも織り込み済みで、「おしえない」。ずっと息をしないようなら、「おしえない」まま目を閉じて、朝まで待つのではないかと、ぞっとする(「教えない」と漢字にしないところに、淡々とした意志を感じる)。夫婦はホラーだ。これなんかもそう。湯上りに倒れた夫見つけてもドライヤーかけて救急車待つだろう横山ひろこ風呂上りのヒートショックで、夫が脳卒中を起こしたのか。この場合、「おしえない」のは犯罪なので一応、救急車は呼ぶ。だけど、待っている間は髪を乾かす。寝かせるぐらいしか応急処置はないからだ。冷静なのか非情なのか。性別逆転すると石を投げられそう。東直子さんと穂村弘さん、二人の歌人が紹介する『しびれる短歌』では、ヒヤりとするような歌がいく...

読み方を学び、文学と出会いなおす『クリティカル・ワード 文学理論』

「文学」に興味がある人に、強くお薦めする。『クリティカル・ワード 文学理論』は2部構成となっており、どちらから読んでも得るもの大。一つは、「基礎講義編」、現代文学の第一人者の小論を、腰据えて読む。テーマは「読む」「言葉」「欲望」「世界」とあり、文学を理論的に思索するとはどういうことか、という問いに対し、この小論そのものが実践的な解になる(この手法は身につけたい)。もう一つは、「トピック編」、パラパラ眺め、目を引いたキーワードを拾い読む。すると、自分の興味のすぐ隣に、さらに面白い議論があることが分かる。「ジェンダー」や「ポストヒューマン」といった分野ごとに、見取り図が提示され、それぞれの主張を支える構造が確認できる。どちらからでもいいが、基礎編で手法を学び、トピック編で応用されている議論を俯瞰すると入りやすいかも。この、基礎→応用で、最もわたしの興味を貫いたのは、エドワード・サイードになる。対位法的読解基礎講義編では、様々な読み方が紹介されている。自分でも色々な読み方ができると思っていたが、テクスト論や徴候的読解、言語の脱領土化など、新しい&強力な読み方を知ったのが収穫だ。なかでも、サイードの「対位法的読解」が目を引く。これは、音楽の対...

心と時間の不思議に迫る『心にとって時間とは何か』

時間は、過去→現在→未来の順に流れており、わたしが「いま」だと感じているものは、現在のことだと思っていた。だが、[この視覚実験]をやってみると、疑わしく見えてくる。赤い丸と青い丸が交互に点滅しているのを見るだけ。パラメータを変えると、赤丸から青丸に向かって、丸が移動しているように感じられる(私は preamble = 1000, disk = 80, inter-disk = 100にしたが、人によって微妙な調整が必要かも)。問題はここから。タイミングを変えることで、赤丸から青丸に移動する途中で、丸の色が赤から青に変わっているように見える。まだ青を見ていないにも関わらず、未来に見えるはずの青を感じているように思われる。なお、直前に見た青から、色の変化を予想しているわけはないらしい(色変化をランダムにしても同様の結果になるという)。 心にとって時間とは何かつまり、途中での色変化(赤→青)を見ているとき、すでに青の情報を受け取っているということになる。そして、その情報を踏まえたうえで、色変化の映像を作り上げた、と考えるしかない。現在の中には、未来も含まれているのだ。わたしが「いま」のものだとして見ているものなのに、未来も視ている感覚になる...

読書は毒書、マンディアルグ『黒い美術館』

ぬるい小説はいらん。読んだら心が抉られるような劇薬を、読みたい。「号泣した」とか、「ページを繰る手が止まらない」といった誉め言葉が満ちているが、そんな気分じゃない。むしろ、「読まなきゃよかった」とか、「ページを繰る手をためらう」作品が読みたい。そんな劇薬を『スゴ本』で語った(怖いもの知らずは、特別付録の「禁断の劇薬小説・トラウマンガ」をご覧あれ)。すると嬉しいことに、「それが猛毒なら、これなんていかが?」と紹介していただいた。それが、マンディアルグの傑作短篇集『黒い美術館』だ。マンディアルグ!知ってる人はドン引く強烈な作家で、代表作の『城の中のイギリス人』では、エロスと残虐性を徹底的に追求している。これ喜んで読む人は、ウェルカムトゥ・ザ・変態・ワールドやね。収録されているのは以下の5編、純粋無垢の存在を、残虐に汚す才能が、如何なく発揮されている。サビーヌ満潮仔羊の血ポムレー路地ビアズレーの墓マンディアルグの凄いところは、物語に出てくるイメージが、読者に与えるコントラストを操作しているところ。読み手の脳内で起こる「映え」やね。たとえば、由緒あるホテルの真っ白な浴室と、そこでリスカして飛び散った大量の血潮のコントラスト。あるいは、ウサギの...

やりたいことは全部やる『キミオアライブ』

病院のベッドで、ひたすらノートに書く少年。大病を患い、未来に絶望しかない状況で、「やりたいこと」を書き続ける。リストには、たくさんの「夢」が並んでいる。リコーダーを吹きたい風船の中に入ってみたい自分で考えた物語を本にしたい部屋中を使ってピタゴラ装置をつくりたい空を飛びたい………………ささやかな願いから、とんでもない冒険まで、さまざまな夢がある。あなたは、こんな「やりたいこと」リストを作ったことがあるだろうか?わたしはある。むかし「夢ノート」が流行ったとき、やりたいこと、行きたいところ、食べたいものなどを綴った覚えがある。リストを作り、名前を付けて保存した。それから十年にもなる。しかし、少年は違う。名前はキミオ、『キミオアライブ』の主人公だ。ノートに、やりたいことを書く書いたことは、必ず実行する実行したら線を引くキミオは、律儀に、真面目に、一つ一つ、実行していく。「リコーダーを吹く」は簡単にできるが、ピタゴラ装置はちょっと大変かも。さらに、「空を飛ぶ」のはもっと難しい。飛行機に乗ればいいのか?...

適応としての笑い『ヒトはなぜ笑うのか』

  犬、売ります:なんでも食べます。子どもが好きです。意味が分かったとき、めっちゃ笑った。誤りに気づいて愕然とする男と、その傍らでシッポ振ってる犬まで目に浮かんで、笑いが止まらなくなった。同時に、男が殺人鬼だったパターンも浮かんで、自分のブラックジョークに、息が止まるほど笑った。ひとしきり笑ったあと、可笑しかった理由を考えても、出てこない。「子どもが好きです」のダブルミーニングは分かるが、それが、どうして狂おしいほどの可笑しみを招いたのか、説明するのは難しい。絶妙なネタが飛び込んできたり、とんでもない大失敗を目の当たりにしたとき、胸の奥・腹の底に、抑えようのない情動が沸き起こってくる。このユーモアの情動がどのように引き起こされるのか、さらに、それをどうして愉快だと感じ、笑いにつながるのか―――認知科学者(ハーレー)、哲学者(デネット)、心理学者(アダムズ)の3人の共同研究『ヒトはなぜ笑うのか』が、この謎を解き明かす。「可笑しさ」のメカニズム本書では、ユーモアの情動が発動するとき、そこに何らかのエラーの発見があることに注目する。私たちは、ある知識や信念に不一致を見出したとき、可笑しみを感じる。私たちは、何かがおかしいと分かったとき、それ...

美は人を沈黙させるが、饒舌にもさせる『栗の樹』

小林秀雄の読書会をするというので、『栗の樹』を読んだら、激しく同意するところと、納得いかないところが割れて、なかなか面白かった。西行や孔子、ゴッホ、トルストイといった、骨董の真贋といったテーマを通じて、批判対象に徹底的に具体的たらんとする姿勢は、激しく同意する。別の書の「美しい花がある。花の美しさというものはない」なんて、美とは何かについて、有力な応答だと思う。あるいは、「『平家』は読んでも分からない。昔の人は聞いたのである」という件は100回膝を打った。古川日出男『平家物語』を読んでいる際、たくさんの声・声・声を肌合いで感じつつ、自分でも音読していたから。言葉は目の邪魔になるしかし、美について言葉は無用というのは、ちょっと違うのではないか。「美を求める心」でこう述べる。例えば、諸君が野原を歩いていて一輪の美しい花の咲いているのを見たとする。見ると、それは菫(すみれ)の花だとわかる。何だ、菫の花か、と思った瞬間に、諸君はもう花の形も色も見るのを止めるでしょう。諸君は心の中でおしゃべりをしたのです。そして、「菫の花」という言葉が心の中に入ってくると、もう目を閉じてしまうという。花の姿や色の美しい感じを、「菫の花」という言葉に置き換えて、...

オンライン読書会で何が怖いか募ったら、1位が人間、2位が自然だった

お薦め本を持ち寄って、まったり熱く語り合う読書会、それが [スゴ本オフ] 。いつもは皆で集まるのだが、世情が世情なだけに難しいので、Zoomでオフ会することになる。「オンラインでするオフ会」とは奇妙だが、主流になりつつある。とはいってもノリは同じで、テーマを聞いてピンときたお薦めの作品への愛を語る。本でも映画でも、音楽やゲームなんでもあり、展覧会や舞台を紹介して頂いたこともあった。で、今回のテーマはホラー。夏には少し早いけれど、現実がホラーに侵食されつつあるいま、リアルに呼応したところに反応してしまう。『呪術廻戦』から『The Last Of Us』まで、様々なホラーが集まる。人間が一番こわいいくつかの作品に共通するのが、「生きてる人間が一番怖い」という思いだ。ゾンビや妖怪、ウイルスや獣といった類は、だいたい何をするか分かる。やってることは殺人や破壊でも、当人にしてみれば食事だったり繁殖になる。だが、生きてる人間は、何をするか分からない。それぞれの欲望を秘め、とんでもなく邪悪なことを平気でしでかし、言い逃れ、あくまで自分が正しいと言い張る。わたしが紹介した、『The...

「感染する自由か、監視された健康か」というレトリック『現代思想5:感染/パンデミック』

「健康」という言葉には色が無く、中立的な善のように見える。しかし、誰も反対しない中立的な言葉からこそ、先入観や政治色を押し付けることができる。無条件に「よい」だと認められるからこそ、レトリックに気づきにくい。たとえば「感染する自由か、監視される健康か」と迫られるときには、そのレトリックの向こう側を考える。わたしは、二者択一を迫るメッセージには、無条件で警戒している。あるはずの他の選択肢を覆い隠してしまうことを、恐れている。情報が近すぎるし、早すぎるから、立ち止まって吟味したい。LINEによる健康調査引っ掛っているのは、LINEの健康調査だ。厚生省による新型コロナ対策のための調査として、LINEを用いたアンケート調査がある。5/1より複数回にわたって行われ、わたしも回答している。立ち止まって考えたいのは、これが大きな議論や反発がされることなく、なんとなく受け入れられているように見えることだ。ひょっとすると、わたしの感度が鈍いのかもしれないが、個人が利用するアプリに、同意なく調査依頼を送ることは、どこかで問題視されていたのかもしれない。だが、一部の反発がつぶやかれただけのように見える。この先にあるものは、携帯端末を通じた監視社会だから、様...

「いまを生きる」に自覚的になる『瞬間を生きる哲学』

tumblr で知った仏陀の言葉が好きだ。 過去にとらわれるな 未来を夢見るな いま、この瞬間に集中しろ Do not dwell in the past, Do not dream of the future, Concentrate the mind on the present moment.そう、わたしは過去や未来ばかり見る。やったことを後悔し、不確かなことを心配する。ああすれば良かったと憤慨し、こうなったらダメだと心を痛める。この、今を後回しにする生き方を批判し、「いま」「ここ」に充足する方法を考察したのが『瞬間を生きる哲学』だ。哲学や芸術から援用し、瞬間を生きるための具体的な技術を指し示す。生のユーティリティ化たとえば、今を後回しにして、「何かのため」に生きる生き方を、「生のユーティリティ化」と喝破したところがすごい。ユーティリティとは、「有用性」「効用」と訳され、何らかの役に立つということ。何の役に立つというのか?それは、入試のためとか就職のため、あるいは家族のためとか老後のため。安定した幸せな人生のため、明日や来年、場合によっては死後に設定された目標に役立たせるために、「いま」を立て続けに収奪する。つまり、アリとキリギ...

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