内田樹の研究室
韓国内で核武装論が高まっている。世論調査では6~7割の国民が核武装を求めている。北朝鮮の脅威が強まっているせいだ。核ミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮はすでに北米大陸を射程距離にとらえる大陸間弾道弾の開発まで進んでいる。 理由はそれだけではない。米国が「東アジアから撤収する」可能性を韓国民は感知しているのである。「あとは自分たちの才覚でなんとかしてくれ」と言って東アジアから米国が引いた場合、韓国はどうやって隣国と向き合ったらよいのか。 たしかに米国は今も軍事力、経済力では世界に冠絶する超覇権国家である。けれども、国内の分断は深く、「アメリカ・ファースト」を掲げた大統領を選んだ時点ですでに「グローバルリーダーシップ」を放棄している。バイデン政権がガザの虐殺に効果的な抑制を果たし得なかったことで米国の道義的威信はさらに下落した。...
ディストピアを語る理由は、ディストピアのありさまをこと細かに語るとディストピアの到来を阻止できる可能性があるからです。これは人類のある種の知恵なんだと思います。 「ディストピアもの」が書かれ出したのは20世紀に入ってからです。オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』とかジョージ・オーウェルの『1984』とかがたぶん最初です。でも、ディストピアSFが大量生産されたのは1950年代、60年代のアメリカです。その頃に大量生産されたのは、米ソの間で核戦争が起きて、世界が滅びるという話です。わずかなヒューマンエラーによって核戦争が始まり、文明が消滅する。そういう話です。映画であれ、テレビドラマであれ、漫画であれ、小説であれ、膨大な数のディストピアムが書かれました。 僕はSF少年だったのでその頃にリアルタイムで大量のSFを読みました。『博士の異常の愛情』とか『未知への飛行』とか『猿の惑星』とか世界が核戦争で滅びる映画もたくさん作られました。小説もテレビドラマも、とにかく飽きるほど似たような物語が流布しました。...
自民党総裁選についての報道は専ら候補者たちの政策や党内基盤についてのみ論評している。でも、見落としていることがある。それは9人の候補者のうち6人の最終学歴がアメリカの大学または大学院だということである。残る3人のうちの一人も、日本の大学を出た後にアメリカの下院議員のスタッフになったことをその後のキャリア形成においてずいぶん強調していた。 ということは、自民党に限って言えば、最終学歴がアメリカであることがどうやらキャリア形成の必須条件だということである。私の知る限りでも、日本の富裕層の中では中等教育から子どもを海外あるいはインターナショナル・スクールに送り込むことが「ふつう」になってきている。その方が英語圏の大学に進む上でアドバンテージが大きいからだと説明された。 「グローバル化の時代なんだから、レベルの高い教育を受けるために海外に出るのは個人の自由だ。横からがたがた言うな」と言う人もいるだろう。だが、私はこういう傾向は端的に「よくない」と思う。...
京大の藤井聡教授と農業について話す機会があった。藤井先生と私は政治的立場はずいぶん違うが、農業を守ることと対米従属からの脱却が必要だという点については意見が一致している。二人とも「愛国者」なのである。 ご存じの通り、日本の農業は衰退の一途をたどっている。私が生まれた1950年代、日本の農業就業人口は1500万人だった。総人口の2割が農業に従事していた計算になる。2030年の農業従事者は予測で140万人。かつての1割以下にまで減ることになる。 わが国が国の食糧自給率は38%(鈴木宣弘東大教授によると実は10%以下らしい)。食糧自給率はカナダが266%、オーストラリアが200%、アメリカが132%、フランスが125%、ドイツが86%、英国が65%、イタリアが60%。日本は先進国最低である。政府は2030年には自給率を45%まで上げることを目標にしているが、農業従事者が減り続けているのに、どうやって農業生産を増やすことができるだろうか。 ...
兵庫県知事のニュースを見ながら、日本の男たちはどうしてこんなに底意地が悪くなったのかを考えた。 今の日本社会では「上司が下僚に屈辱感を与えること」はほとんど制度化している。問題はそれが特段の害意なしに、日常的に、挨拶代わりのように行われていることにある。なぜ日本の男たちは「人に屈辱感を与える」ことにこれほど勤勉になったのだろう。 私の仮説は、これは終身雇用・年功序列制度を放棄して、雇用の流動化を図ったことの帰結だというものである。昔はふつうの会社では勤務考課ということが行われていなかった。誰でも一定の年数勤めると自動的に職位が上がった。査定は「能力の高い人間にはより困難なタスクが与えられる」というかたちで行われた。能力の高い人も低い人もそれを喜んで受け容れていた。だが、日本が貧しくなり、分配できる「パイ」が縮み出すと、そんな牧歌的な人事ができた時代も終わった。個人の能力は成果に基づいて数値的に表示され、その得点順に資源が配分されるというのが新しいルールになった。メンバー同士の相対的な優劣がまず問われ、そもそも自分たちはいかなるミッションを果たすためにここに集まって協働しているのかを問うという習慣がなくなった。...
私の「総索引」を作ってくれる神野壮人さんが凱風館まで来て、ロング・インタビューをしてくれた。 2時間にわたるインタビューだったのでとても全部は掲載できないので、ここで「予告編」として最初の方をご紹介する。 全編を読みたい方は、そのうち「総索引」でURLが公開されると思うので、それを待たれたい。 ──私は、内田先生の研究者ではなく、伝道者になりたいです。 内田 そのポジションがいいですよ。 ──ですから今後は駆け出しの未熟者として、内田先生からのお叱りを覚悟の上で論じ、またファンとして内田樹を伝道したいと思います。 内田 研究者と伝道者は別物です。一知半解でも伝道者にはなれます。その人の書いたものを一行だけ読んで、「この人はこういうことを言いたいに違いない」と思ったら、自分が思ったことを伝道して構わない。知識量は関係ないんです。ぜひ伝道して下さい。...
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